「東京都書店案内」のその後
平成27年3月、青年部会長 小川頼之 小川頼之
今回は、今年の青年部活動のトピックの一つ「東京都書店案内」(以下「店案内」)のサイトについて説明したいと思う。
その前にまず「Takestock」(以下「Tks」)というホームページについて触れておく。このサイトは、全国の1400書店の在庫と6100館の図書館の在庫を横断検索し、その結果を地図上に一括表示するというもの。これにはパソコン用のホームページの他にIOS(iPhone,iPad)用のアプリがある。運営会社は慨pinningWorksといい、潟Tイバーエージェントの孫会社で、「価格.com」の親会社、「ミクシィ」の親会社等も出資する会社だ。このサイトの収入源はAmazonからのアフィリエイト収入だけと思われる。つまり、全国の書店と図書館在庫を武器に読者のアクセスを集め、書店に行けなかった人たちの注文をAmazonに流してそのおこぼれを頂戴するビジネスなのである。書店の在庫を勝手に使って商圏のお客様の需要をAmazonに流すというビジネスを、あのIT長者の関連会社が行うという恐ろしい状況が昨年秋に既に生まれていて、現在ものすごい勢いでアクセスが増加しているという。(電車で前の席に座ってスマホをいじっている人たちのうちの何割かがこのアプリを使って本を探していると考えてみて欲しい。)
このTksと比較して、店案内の現状はどうなっているか。
まず、店案内では図書館の在庫は分からない。(この影響については今後調査してゆきたい。)
次に対応地域の問題だ。店案内は一都三県しか本を探せないが、Tksは全国対応だ。(これは早急に改善して追いつく必要がある。)
その次に店頭在庫の検索機能の比較だが、日本で1・2を争うあるチェーン店の在庫が、Tksでは不明となるが店案内では表示できる。だが、何と言っても店案内が弱いのは組合非加盟店の在庫が不明となってしまうことだ。東京都内では、ネットから在庫検索可能な店が148店あるが、このうち組合加盟店は45店しかない。これは読者には圧倒的に不便なことだろう。これについては店案内もスイッチ一つですぐにでも対応可能である。もうすでに他のサイトが非加盟店の在庫を見られるようにしてしまっている以上、我々だけがわざわざ隠しても結局は同じことなのではないか?
そして店案内がTksに対して一番優れている点は、在庫が不明な書店も地図上には全て表示されるという点だ。東京都内で在庫検索できる店が1000店中148店とすれば、Tksでは在庫検索できない書店は存在しないことにされてしまう。つまり都内に148店しか書店がないという様に案内される。すぐ近くの駅前の書店に行けば在庫があるかも知れないのに、そこを全く無視して他の書店や図書館を紹介されても、それでは片手落ちだ。Tksがネットユーザだけの自己満足のシステムと言われても仕方のない部分だろう。
これらのことから、一都三県在住の読者が本を探す場合、普通は最初にTksで調べて、条件が合わなければ店案内で調べることになると考えられる。そして、どの本屋でも購入しにくいとなればAmazon信者はTksの、書店を好きな方は店案内の通販機能を使って購入するのではないかと思う。
さらに、ユーザ目線では見えてこない部分であるが、この2つには、決定的で重要な違いがあることにお気づきだろうか? それは片や無償のボランティアサイトで、片や商用サイトであるということだ。店案内はほぼ青年部のメンバーの自己犠牲によって実現された存在である。そしてこの自己犠牲は我々書店人の執念が続く限り永遠に持続可能だ。このことはTks等を寄せ付けない圧倒的な強みとなる。無償であるということは、諦めさえしなければ、時間はかかってもいつかは必ず勝利するということを意味する。対してTksは商用サイトであり、他サイトが同様なサービスを開始したり、我々がサービスを改善したりすれば、撤退を考える可能性も高いだろう。
商用サイトと同レベルなサイトを内部で無償で持っているということは、我々書店にとって非常に強力な武器となる。
これは、市場原理一辺倒になってしまっている腐った日本社会の中では稀有な出来事であり、ひとえに書店人の執念が誠実に積み重なってできた奇跡なのだと思う。
(本原稿は2015年3月発行の東京都書店商業組合会報「東京書店人」原稿をそのまま転載したものです。)